漆器の素材
漆器の素材と特徴
漆器は本来「木」と「漆」を主な素材として作っていますが、現在では合成樹脂や化学塗料、また外国からの輸入品など多種にわたっています
生活を豊かにする為の一つのアイテムとしての漆器も、本来の木と漆の漆器以外にも、現代の生活の中では便利な漆器製品もお勧めです。しかしその分、素材との相性やその塗り方、技法によってメリット、デメリットが幅広く存在します。
漆器をより楽しむ一つとして、ぜひご参考なればと存じます。
生地の素材
生地は漆器のベースとなる材料です。
本来は木製でしたが、どうしても高価になる事もあり、現在では業務用始め、量販店などで販売されてるほとんどが樹脂製と言ってもいいかと思います。
また、生活環境も変化し、家庭でも食器洗浄機を使用される方も多くなり、その点でも樹脂製が多くなっている要因です。
木製、樹脂製ともメリット・デメリットもありますが、使い方やご予算に応じてご選択頂ければと思います。
木の素材
漆器の主な材料である「木」ですがその「木」でも幾つかの種類があり、それによって特徴があります。
また、重箱やお盆などの角物は一枚板の他にも合板や集成材なども主流になっています。
木材は天然木・合板含めここ数年で高騰の一途を辿っています。その原因としては、温暖化などの自然的な要因の他にも戦争などの人的な事も大きな要因の一つです。
木製の特徴は軽い事や、保温性、安全性、自由性など多くのメリットもありますが、反面、反ったり、変形しやすいので、丈夫にする為にも製作工程も多く、どうしても高価になりやすい事、また工程が多い分製作期間も長くなります。
ただ、やはり柔らかな質感や持った時の軽さや温かみなどは大きな魅力です。
欅
日本の代表的な広葉樹。寿命が長く、街路樹としても広く使用され、広く日本人に愛されている木です。
けやきの特徴としてはなんといって、堅い事、木目が美しい事。その為、建築材、家具などによく使用されてきました。
堅く、湿気に強い為、狂いが少なく、蓋付きの吸物椀や棗などの素材としては最高の木材の一つです。
また木目も美しいので拭き漆など木目を活かした仕上げにも向いています。
水目桜
日本特産の広葉樹、山深くに生えています。材質は堅く、柔軟な為、古くはこの木で弓を作りました。
堅く、柔軟な性質は漆器、特に丸物(椀や盆)にはとても相性のいい素材です。
けやき程は堅くはないですが、逆にその柔軟性がある為衝撃には強いお椀になります。
また、けやきに比べるとやや価格も安い為もあって、お椀などには広く使われています。
栃
ほぼ日本各地で見られる広葉樹。材質は軽く、柔軟です。
素材が柔らかい為、加工し易く、刳り物、挽き物には向いています。
素材の加工のし易さと価格が安い為、一般的な汁椀や丸盆には古くから使われてきた漆器の代表的な素材です。
栃はその実からも「栃餅」などの山の民の食料となったり、冬眠する前の動物たちの大切な食料になっています。
合板
薄い木を接着剤で複数枚を貼り合わせたものです。
単板の繊維(木目)が交差するように重ねて貼り合わせるため、断面は縞模様に見えます。
表面の木材をシナ材・ラワン材などにする事で木目も綺麗な材料にできます。
伸び縮みが少なく反り難いので、現在はお盆などの板物の主な材料になっています。
集成材
製材された板あるいは小角材など、節や割れなどの欠点の部分を取り除き、繊維方向をそろえて接着剤で接着してつくる木質材料のことです。
木材に節などもなく、圴一して綺麗な表面になります。
天然材に比べ、強度や寸法安定性、耐久性に優れ、湾曲した材料も製造できるなどの特徴があります。
MDF
木材の原料チップを粉状に繊維化してから成形した板です。
身近な物ではカラーボックスや家具に良く使用されています。
加工しやすく、単価も低いのも大きな特徴です。
デメリットとしては水分に弱く、水を含むと膨らみ弱くなります。
漆器では食器より、家具や調度品に使う事があります。
樹脂の素材
高度成長期と合わせて、漆器の世界にも新しい素材がどんどん使われるようになりました。
木材に比べてコストが低い事、耐久性も高い事など、木製品に代わって、今では市場の殆どが樹脂製品です。しかしながら、その素材の特徴も様々で、工程や塗料との相性も理解し、製作する必要があります。
■木粉入り合成樹脂
漆器業界では一番出回っている素材の一つです。きちんと研いだり、下塗りをして仕上げた物は漆の仕上がりも比較的いい方です。
混合させる樹脂や成型温度によっては、高温にも非常に強い為、ウレタン塗料等で塗り、高温で乾燥したものは丈夫で、業務用などの漆器に使う場合も多いです。
表示名 | 「木合」、「木質」「木乾」「MDF」「合成漆器」など(産地、メーカーのよって異なります) |
主成分 | 木粉と熱硬化性の樹脂(フェーノール等)の混合材 |
成型方法 | 金型で圧縮し、高温で成型します |
質量 | やや重い |
硬度 | 硬度は高く、温度に対しては強く変形しにくい素材です。若干割れやすい |
特徴 | 木粉が混入されている分、若干木製に近い質感を持ち、やや保温性もある。 |
注意点 | 研いでなかったり、研ぎがあまいと密着性が低く、すぐに剥げる事がある。 |
■メラミン系樹脂
高温や薬品、紫外線への耐久性は非常に強く、殺菌処理の必要な病院や学食、ドライブインなどでよく使われています。回転寿司のお皿などもこの系列の商品です。
最近ではメラミン専用のすばらしい塗料も開発されています。ただ、質量が重く、本来の漆器の質感からは遠い存在です。
表示名 | 「メラミン樹脂」「プラスチック」など(産地、メーカーのよって異なります) |
主成分 | 熱硬化性の樹脂 |
成型方法 | 金型で圧縮し、高温で成型します |
質量 | 重い |
硬度 | 硬度は非常に高く、温度に対しては強く変形しにくい素材です。衝撃にも強い |
特徴 | 塗らない場合は高温や薬品、紫外線への耐久性は非常に強い。木製の質感などは殆ど無い |
注意点 | 研いでなかったり、研ぎがあまいと密着性が低く、すぐに剥げる事がある。 |
■ABS樹脂
一般家電や生活品の色んなところで使われている素材です。価格も安く、塗料との相性もいいので、漆器製品、特に飲食店、旅館などの業務用でもよく使われています。
ただし、グレードにより75℃以下でも成型ができるため、場合によってはお湯に漬けたら変形する物もあります。
業務用では耐熱ABSなど高温に対応できる商品が主流となっています。
表示名 | 「ABS樹脂」、「ABS」など(産地、メーカーのよって異なります) |
主成分 | 熱可塑性の樹脂 |
成型方法 | 素材のペレットを熱で溶かし、金型に注入して成型 |
質量 | 重い |
硬度 | 硬度は低いが粘りがあるので割れ難い。温度に対しては弱く物によっては80度前後で変形する場合あります。(耐熱ABSは120度前後) |
特徴 | 木製の質感などは殆ど無いが、ウレタン塗料との密着は抜群に良い。 |
注意点 | 温度で融解するのでコンロのそば等において置くと変形する事があるので注意 |
■アクリル樹脂
素材そのものに色を混ぜた物は塗装しなくても仕上がりがきれいです。
表示名 | 「アクリル樹脂」、「アクリル」など(産地、メーカーのよって異なります) |
主成分 | 熱可塑性の樹脂 |
成型方法 | 素材のペレットを熱で溶かし、金型に注入して成型 |
質量 | 重い |
硬度 | 硬度は高く、粘りがあるので割れ難い。 |
特徴 | 基本的にアクリル専用以外の塗料は使えません。 |
注意点 | 高温で融解します。 |
塗装の素材
漆器は「塗物」と言われるように表面には必ず何かしらの塗装をします。本来であれば「漆器」の名のごとく「漆」を塗ったものが、最近では化学塗料を塗ったり、また塗らない物もあります。
現代の生活の中で、高価な漆器以外にも便利な漆器製品は必要だと思います。しかしその分、素材との相性やその塗り方、技法によってメリット、デメリットが幅広く存在します。
漆、塗料に限らず素材のグレード、工程、乾燥をしっかりした物はそれぞれの特徴を活かしたすばらしい商品です。
メーカーや販売店の企業努力でお買得の物もありますが、しっかりした物はやはり単価に反映されます。その事を考慮して上手なお買物をして頂ければと思います。
■漆塗り(手塗り)
本来の漆の特徴は、防腐剤、接着剤、硬化剤、色付けなど幅広く、現代の塗料の中でも大変優秀な素材です。古くはその特徴を活かし、土器、兜や鎧、建材など幅広く使われました。
漆の素材その物はアルカリ性、酸性、水分、熱、衝撃にも大変強い物です。しっかりした下地や研ぎなどの工程を踏まえれば、化学塗料に比べても平均点は非常に高く多くの面でバランスのとれた塗料です。価格の高さはありますが、総合的にはやはり一番お薦めできます。
表示名 | 漆、漆塗り、漆塗装など(産地、メーカーによって異なります。) |
塗装方法 | 刷毛やヘラで手塗り |
密着性(研いだ場合) | 大気中の湿度(水分)と温度(20度前後)により化学反応によって硬化、乾燥 |
耐熱性 | 100度までなら○(しっかり乾いている場合)、高温の油などは× |
安全性 | 植物性なので基本的には安全な素材です。人によってはかぶれる場合がある。 |
耐久性 | 非常に長い |
傷 | 細かな傷には復元力あり、 |
汚れ | 特に油分の汚れは付きにくく、落ち易い |
使用洗剤 | 一般洗剤○、漂白剤×、研磨剤×(蒔絵などが落ちる場合がある) |
食洗機の耐応性 | あまり使用しない方が良い(長持ちします。) |
紫外線滅菌 | × |
塗面の特徴 | 塗面は厚く、しっとりとした質感があり、大変深みのある艶を持ちます。 |
■漆塗り(吹付け塗装))
漆の表面の質感、美しさがあり、安価にできますが、吹付けできるように成分をうすくするので塗面の厚みや耐久性は落ちます。
漆の見栄えを重視する場合には購入しやすい商品です。
表示名 | 漆、漆塗り、漆塗装、吹付け漆など(産地、メーカーによって異なります。) |
塗装方法 | エアガン、スプレーで吹付ける。 |
密着性(研いだ場合) | 大気中の湿度(水分)と温度(20度前後)により化学反応によって硬化、乾燥 |
耐熱性 | 100度までなら○(しっかり乾いている場合)、高温の油などは× |
安全性 | 植物性なので基本的には安全な素材です。人によってはかぶれる場合がある。 |
耐久性 | 漆手塗に比べると落ちる |
傷 | 細かな傷には多少復元力あり(漆手塗に比べると低い) |
汚れ | 特に油分の汚れは付きにくく、落ち易い |
使用洗剤 | 一般洗剤○、漂白剤×、研磨剤×(蒔絵などが落ちる場合がある) |
食洗機の耐応性 | あまり使用しない方が良い(長持ちします。) |
紫外線滅菌 | × |
塗面の特徴 | 塗面の厚みは漆よりはありません。ただし漆のしっとりとした質感、艶を持ち、手塗に比べ安価です。 |
■カシュー漆塗装(吹付け塗装)
安価にできる事と、漆成分も若干混ざっている為、漆の美しさもややあります。また現在では高温で乾燥させる事で、洗浄機にも対応でき、色の幅も多く優秀な塗料です。
また、ウレタン塗料との混合で耐熱性や高度も高くもできるので、平均点の高い塗料の一つです。
表示名 | カシュー漆、カシュー、カシュー漆塗装など(産地、メーカーによって異なります。) |
塗装方法 | 刷毛やヘラで手塗り |
密着性(研いだ場合) | 揮発成分の蒸発と温度(60度~100度)で硬化 |
耐熱性 | 80度~120度までなら○(焼付け乾燥の場合) |
安全性 | 植物性なので基本的には安全な素材です。ただし溶気剤が揮発性の物です |
耐久性 | 漆手塗に比べると落ちる |
傷 | 硬度は高いので傷その物は付きにくいが細かな傷は付き易い |
汚れ | 特になし |
使用洗剤 | 一般洗剤○、漂白剤×、研磨剤×(蒔絵などが落ちる場合がある) |
食洗機の耐応性 | 乾燥温度と素材によっては対応可。 |
紫外線滅菌 | ○ |
塗面の特徴 | 吹付け塗料系の中では塗面は厚めなので質感、深みもウレタンより漆に近い。 |
■ウレタン塗装(吹付け塗装)
安価にできる事と、色の豊富さが特徴です。市販されているもので、安価な物はウレタン塗装が主流です。研ぎをしっかりする事とベースに塗った上からクリア塗料などで塗る事によって更に丈夫な塗面を作ります。(業務用の漆器は殆どがウレタン系の塗料です。)
ウレタン系はそのグレードや種類の幅も多くいので、使用目的によってうまく使い分けると、さらに漆器の楽しみの幅は広がります。
ただし物によっては薄くした物、乾燥温度、素材によってはすぐ剥げたりする可能性があるので注意して購入する事をお薦めします。
表示名 | ウレタン、ウレタン塗装など(産地、メーカーによって異なります。) |
塗装方法 | 揮発成分(シンナー系)の蒸発と温度(60度~100度)で硬化 |
密着性(研いだ場合) | 木製○、木粉入り合成樹脂◎、ABS樹脂◎(特に良い)、メラミン樹脂など○ |
耐熱性 | 80度~120度までなら○(焼付け乾燥の場合) |
安全性 | 基本的にはシンナー系の塗料です。 |
耐久性 | 漆手塗に比べると落ちる |
傷 | 硬度は高いので傷その物は付きにくい。クリア塗料などの2回塗で傷が付きにくくなる。 |
汚れ | 特になし |
使用洗剤 | 一般洗剤○、漂白剤、研磨剤×(物によっては○もある) |
食洗機の耐応性 | 乾燥温度と素材によっては対応可。 |
紫外線滅菌 | ○ |
塗面の特徴 | 塗面その物は漆に比べるとかなり薄いです。色の豊富さはありますが、漆のような質感、深みはあまりありません。 |